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都築響一撮影のラブホテルのインテリア。そのデザインはどれも独創力に満ちあふれ、止まることのないクリエーションの実践の場でもありました。しかし、そんなインテリアも絶滅の危機に瀕しています。「装置としての空間」を見逃すな!

ラブホの夢は夜ひらく

 「コピー上手」と揶揄される日本人が、なぜかエロについては世界最高レベルのオリジナリティを発揮する。ソープからイメクラ、デリヘルにいたる性風俗産業をはじめとして、ハイテク装備のオトナのおもちゃ、漫画に風俗誌まで、世界から注目を浴びるクリエイティブ・スピリットが、日本のエロには根づいているのだ。そして、インテリア・デザインにおけるエロの極北は、ラブホテルにある。
 セックスのためのホテルという空間は、なにも日本だけでなく世界各地に存在する。しかし円形の回転ベッドだとか、「パートナーがお風呂に入っているのを寝ながら見るための透明バスタブ」だとか、「いろんな使い方ができるブランコ」だとか、短時間の性行為のための場所という本来の目的から大きく逸脱した、ユニークとしか表現しようのない独自の空間へと変異している例は、世界広しといえども我が国にしか存在しない。そしてもちろん我々は、要求される機能を完璧に満たすのがクラフトであり、要求を超えた無用無意味の領域に踏み込んでいくのがアートだという基本原理を、忘れてはならないのである。
 「これ、どうやって使うの?」と絶句するようなラブホテルの設備を見ていると、日本人はもしかしてセックスを遊ぶことに、かなり長けているのかもしれないと思えてくる。単純に性欲が過多なわけでもなく、性の営みを真面目にとらえていないのでもなく、なにかちがうレベルでセックスと関わる姿勢を、我々はいつのころからか遺伝子の中に持ってしまったのだろうか。
 クリエイティブな遊びごころにあふれたラブホテルは、しかしいま急速に姿を消しつつある。僕はほとんど絶滅危惧動物を追うような気持ちで、昔ながらのインテリアをそなえたラブホテルを撮影してまわった。円形ベッド、鏡張りの壁や天井、虹色のシャギー・カーペット・・日本人の血と吐息を桃色に染めあげる、禁断のデザイン・エレメントのほとんどすべてが、ここにある。
 さあ、急いだほうがいい。またひとつ、失ってからその大切さに気がつく前に。

都築響一