Text 針谷周作(SALON)
「僕が作品を作り上げるときには、既存の音楽をサンプリングする。コンセプトによって、新たなものが出来上がるんだ。なぜ僕が音楽やサウンドを作るのかといえば、形を変える《TRANSFORM》ことに興味があるからだ。既存の音楽を参考にしながらも、その形を変えるんだよ。」(ヤン・イエリネック インタビュー 『サウンド バイ ヴィジョン 2004』より) 20世紀のテクノロジーの進化は、人間の生活に大きな変革をもたらしました。特に1877年、エジソンによって発明されたろう管式蓄音機の登場は、機械を介した音楽の記録と再生を可能にしました。その発明から100年以上経過した現在、過去からは想像すらできなかった音楽の記録手段によって、過去の文化的遺産が保存されています。もちろん、ここ数年のテクノロジーの進化は、制作者側にとっても革命的な出来事でした。蓄音機の発明から、様々な音色を紡ぎだすシンセサイザーが生まれ、それは時代とともに安価かつ使いやすいものとなり市場に出回るようになりました。かつては高価で手に入れることのできなかったマシンを、ストリートレベルのアーティストたちが使えるようになり、そこにはアカデミック、ストリートという枠を越え、あるソフトについてインターネット経由で議論がはじまり、誰かが編み出した制作方法における新しいティップスを紹介したりと、楽譜上で構築される音楽とはまったく異なる思考法と、なおかつ刺激的で新しいサウンドが生まれてきたのです。 その時期を同じくして注目されたのが映像です。エレクトロニック系のイベントには、もはや欠かせなくなったのが音楽をより盛り上げるための映像、いわゆるVJの存在です。特にDJ系のイベントでは、照明と同様に映像が会場の臨場感を盛り上げます。しかしながら、それほどこれまでは重視されてこなかったVJは、その質や音楽とのマッチングを無視したものが少なからずあったといっても過言ではありませんでした。ある時、ある音楽家が、音楽と映像を同時に自分でやってみてはどうかと考えました。「このベースのリズムが刻まれるときにはこのエフェクターのパラメータを、この周波数が出たときは、映像をAからBへとスイッチさせよう。」という具合に。テクノロジーの進化は、メディアを超え、クリエイターに大きな可能性と機会を与えてくれました。上記のようなプロセスを踏んだ一人であるオランダのTELCOSYSTEMSは、音と映像の関係性についてこう語っています。「このコラボレーションの目的は、音と映像の新しい表現方法を模索することにあった。デジタル機器の中でも、特にコンピュータをタイプライターというより、楽器のように使ってね」(テルコシステムズ=ギデオン・キアーズ)。 もちろん、ここで重要なのは机上で音と映像の可能性を探ることではなく、サウンドとヴィジュアルをアクチュアルに「体験」することです。実際にサウンドの可能性をヴィジュアルとの融合で試みるイベント「ソニックアクト」*のオーガナイズも行う彼らの発言は、最先端の芸術という意味で説得力があります。現在のVJやDJは、私たち観客が思う以上に映像や音楽というジャンル内のみで完結している訳ではありません。音楽をやりながら、自分たちの音楽にあったヴィジュアルを思い浮かべていたり、映像をコントロールしながら独自のリズムを刻んでいたりと、音楽を視覚化し、映像を音楽化するという思考法を感覚的に身につけているのではないでしょうか? 《サウンド バイ ヴィジョン 2004》では、こういったクリエイティブの世界から発せられる新たな映像と音楽による表現を追求し、まさに現代的なクリエイターたちの豊かな世界観を提示していきたいと考えています。
「サウンド バイ ヴィジョン 2004」は、2004年9月から12月までの合計約64日間、全国4都市で開催されるプロジェクトです。
◇ Cornelius|コーネリアス(日本) "フリッパーズ・ギター"解散後、小山田圭吾のソロプロジェクトとしてはじまったのが"コーネリアス"。オーディオ技術を駆使したサウンドは、まさにSOUND X VISION的ともいえるような立体感あふれる様相を呈している。
◇ Kouta Ono|小野 浩太 映像作家。アナログ機材を複数使用し映像素材を幾重にも組みあわせることにより万華鏡の中を覗き込んだかのような有機的で美しいミニマムな世界を描き出す。ハプニングなどの事象を直接映像に混ぜ合わせることにより、より異形な映像世界を生み出す。 PV:calm 「noon at the moon」 computer soup:dream mons」(sampless+山辺圭司 <los apson> との共作)など。 minamo(cubicmusic) 棗<なつめ>(Noble)などのlive映像を手掛ける。映像と音のパフォーマンスグループ neon innのメンバーでもある。美術展として原美術館《Sound Garden at Hara Museum》(2002年9月)、neon inn企画展《visitors》、360° Records Exhibition《7songs展》(2004年7月)website:http://www014.upp.so-net.ne.jp/book_life/
■山口開催 (共催:山口情報芸術センター)11月3日(水)〜11月23日(火)山口情報芸術センター[YCAM] /入場無料
■東京開催12月3日(金)〜12月12日(日)ラフォーレミュージアム原宿 /入場料:1000円(予定)